Quantcast
Channel: 無心
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2344

「日米防衛協力のための指針」について- 吉本隆明

$
0
0
現在問題となっている『集団的自衛権』なるものの原点ともいえる自社さ政権下での動きを、以下、「八重洲レ
 
ター」吉本隆明の視点 (1995-1996)より。
 

政治・社会・経済をを讀む―「日米防衛協力のための指針」について- 吉本
 
隆明


 村山富市社民党委員長が首班だった連立内閣から自民党総裁橋本龍太郎首班の連立内閣に変わっ
 
た。
 
そこでじぶんの関心がどう変わったか自問してみた。おなじ自民・社民・さきがけの連立が下半身で、ち
 
っとも変わりないのだから、大きな相違があろうはずがないと言うほかない。だがもう少し微妙な気持の
 
変化をかんがえてみると、何となく関心がまえよりも薄くなったような気がする。村山首班のときには、彼

は以前社会党反体制派のときもあったのに何ということをするのかとか、何を言うのかとかいう反撥が批

判の気を起こさせた。橋本龍太郎首班では批判しようという意欲が起きるほどのひっかかりすら感じられ

ない。内緒話では、彼の容貌は眼が煙ったようでのっぺりしていて、古典的な女ったらしの表情をしてい

るなどと悪たれてみせるくらいが関心のせきの山だった。

 ところでそんな馬鹿話にふけっていてはいけないという強引さが、すこしあらわれてきて油断ならない

という感じになった。そのことを政治現象としてメモしておきたいとおもう。沖縄で駐留兵士たちによる

日本人少女の暴行事件がおこった
。たぶん今までもそれに類した事件は度々あったのかもしれない
 
が、今度の暴行事件は駐留基地の縮小や撤廃の要求にまで発展する沖縄地域民の抗議の運動にま
 
で発展した。この種の抗議運動はスケジュール運動家の先導で線香花火みたいに盛りあがって、すぐ
 
に消えてしまい、「はい次ぎ」ということで終ってしまうことがおおいのだが、今度の事件への沖縄県民
 
議の声には政党に先導されて腰をあげたというところからはみ出して、もしかすると進歩政
 
や市民主義運動が当惑してしまうかもしれない直撃な県民の声がわたしのような遠隔地のヤ
 
馬にも聞こえてき。また沖縄の行政の首脳の声のなかには、米軍基地の半分近く(約三十五%く
 
い)が民有地の強制接収地だということへの瞋りと、日本国内の米軍基地の大部分(約七十数%)が
 
縄に集中し、沖縄の県民が不自由をしのび、被害を蒙っている実情を知りながら、この不公平を是
 
正しようともしないで、犠牲を沖縄県民におしつけたままで恥じない日本政府にたいする瞋りと
 
が二重に含まれていて、この行政主脳(大田知事に象徴される)の瞋りが、並たいていのことで
 
は収まらない強固な本物だということが、橋本内閣の行政指令を拒否する態度のなかにあらわ
 
れていた


 
                           略 
               


わたしたちはその直後に行われた日米首脳会談で、アメリカ政府の責任者が謝罪の気持を公言
 
し、日本政府の橋本首相がそれ相当に強い抗議の意志を表示し、その成果として「普天間基
 
地」が廃止されることが決定し、基地兵員や施設を本土に移すという合議が成立して、まずはよ
 
かったということになったとおもってきた。

 ところが事態はその正反対のものだった。アメリカ政府がこの安保再確認の首脳会談で日本側に
 
求として提案してきたことは、日米が防衛協力することについて、日米防衛協力のための指針
 
(ガイドライン)」に記されている「極東」の地域の「有事」を「日本の周辺域」というように拡大し、
 
日本が侵略をうけたばあいの「自衛権」というところから「集団自衛権」ということに改めて、「日
 
本周辺地域」に起こったことすべてに集団的に「自衛隊」を行使するというように拡大しなくては
 
ならないということだった。

 橋本龍太郎首相は何の抗弁もせずにアメリカ政府のこの要請(指示といってよい)を受け入れ、五月
 
十七日(九十六年)に「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」をこの拡大解釈の方向に改
 
正することに決めた。そして「日本の周辺地域」というのを「日本に重大な影響を及ぼし得る中東
 
やマラッカ海峡、南沙諸島なども含まれる」というように拡張して解釈する見解をうち出した。も
 
ちろんこの「有事」の拡大も、「集団自衛権」をこの拡大された「有事の地域」へ適用できるという
 
解釈も、はっきりと憲法違反・第九条の侵犯にあたっている。

 さきの村山首相も自衛隊は合憲であるという言明を国家の予算委員会での答弁ひとつで決定してしま

い、カンボジアやルワンダに派遣して、他国の内戦に国連軍の一員として参加し死者と負傷者の犠牲を
 
仕出かしてしまった。この重大な憲法第九条を実質上無効にするような重要な決定を国民にでき
 
るだけ知らせないような形でやった。そして護憲派と称する知識人も国民の全般もこのことが何を意
 
味するのか受けとれないで、ぼんやりと気づかずに、眼の前を通りすぎるのを見送ってしまった。そして
 
いまも憲法は無傷のまま、今でも護憲などと言っている。この鈍感さはどうしようもないし、運用論だけ
 
で憲法の非戦の事項をつぎつぎに変えてしまう日本人の性格に根ざした政治家や知識人の狡
 
さもどうしようもない絶望感にかられる。わたし自身だって諦めの方が先に立ち、じぶんが諦めても当
 
分何ごとも起こるまいという安きを盗む気持を持っていることを匿せない。だが村山内閣がやったことは、
 
もっと大穴をあけられる形で、橋本内閣でもやられた。日米首脳会談で「有事」の範囲を中東やマラッ
 
カ海峡や南沙諸島にまで拡大し、「自衛権」を日本国が侵略を受けたときどうするかの課題か
 
ら、日本の利害関係がかかわるところならば世界中どこでもという範囲に拡大されてしまった。
 
これが沖縄少女にたいする暴行事件の見返りだという重大な変更が、国民にできるだけ眼を覚
 
まさせない既成の、また自明の事実のように行われてしまった。もちろん、この安保再確認という
 
形での変更をいい事だという受けとり方をする国民はいるかも知れない。むしろ大多数派をつくるほどい
 
るのかも知れない。この数年来、自民のような最保守派から社会民主党の進歩派にいたる連立が成り
 
立ち、共産党がシンパにつくようになってから、いつも重大な折り目のときに繰返されてきたことだ。また
 
新聞、マスコミも宣伝機関として世論のようにそれに迎合してきた。

異を称えるためには多少の勇気を必要とするようにもなってきた。

 でも北朝鮮と韓国のあいだに境界線の小競り合いがあったり、北朝鮮が核弾頭ミサイルをもっている
 
疑いがあるとか、中国が核実験を繰返しているとか、中国本土と台湾のあいだに相互の示威的な武力
 
移動があったりすることが、「有事」であると貴方は思いますか? また「有事」にたいする範囲を「極東」
 
から日本の利益に関する事件が起こった世界中の全域にひろげるような事件だと思いますか? わたし
 
はじぶんの戦争体験の反省に照してみて、こんなことは日本国にとって「有事」であり得るはずがないと
 
思っている。それよりもアメリカを説得して軍事的に世界中のお節介の善意を押しつけるよりも、真っ先
 
に核兵器の保有量を縮小し、廃止する音頭をとり、武力が物を言う国家「間」の価値観を無効だとする模
 
範を示すようにしてもらうほうが、ずっと早道だと認識してもらうのがいいと思う。どっちが「現実的」か

「非現実的」か考えてみて欲しい。


                         ・・・以上・・・


結局、普天間基地撤去の空約束と引き換えに、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」が改定さ

れ、「有事」の世界中への拡大、そして、そのための集団的自衛権の行使が是認されてしまったのだと
 
いうことでしょう。

 
沖縄の住民自身による直撃の抗議の声は、当時からはっきり示されていて、その思いは、現在でも全く
 
衰えていないことを、現在の沖縄が証明しています。

本土の私たちが目指すべき方向も明らかだと思います。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2344

Trending Articles