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Channel: 無心
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従軍慰安婦を描いた田村泰次郎『春婦傳』

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日韓首脳会談が、従軍慰安婦の問題で行き詰っているようですが、そもそも従軍慰安婦の存在自体、現在の日本では余り知られていないように思います。
 
 
「『春婦傳』は原稿用紙100枚の書き下ろし作品である。戦争の間、大陸奥地に配置せられた私たち下級兵士たちと一緒に日本軍の将校やその情婦たちである後方の日本の娼婦たちから軽蔑されながら,銃火の中に生き、その青春と肉体を亡ぼし去った娘子軍はどれだけ多数に上るのだろう。日本の女達は前線にも出てこれないくせに、将校とぐるになって、私たち下級兵士を軽蔑した。私は彼女たち娘子軍への泣きたいような慕情と、日本の女たちへの復讐的な気持ちでこれを書いた」《田村泰次郎『春婦傳』銀座出版版の序)。
 
この娘子軍とあるは従軍慰安婦のことである。この作品は当初は雑誌に発表される予定であったがGHQの検閲でダメになった。銀座出版で単行本として出るがこの序は削除されている。GHQの検閲は植民地支配を受けていた人々への不当な差別表現を排除するという理由であったが、従軍慰安婦の存在を曖昧にすることにもなった。この作品は戦後の直後に書かれたもので現在からは戦時下の性暴力の描き方に問題があるという批判もあるが、従軍慰安婦の存在を戦後最初に知らしめそれを克明に描いた作品である。
 
                         略
 
ここで明瞭なのは従軍慰安婦の存在であり、それが軍の関与で存在したということである。田村泰次郎が娘子軍と表現したことが示唆するものは多いはずである。軍の積極的な関与なしに従軍慰安婦は存在できなかったのは明瞭である。
 
 
                      ・・・以上・・・
 

 田村氏の元々の本文では、春美を含め慰安婦は「みんな本当の朝鮮の名前があるのだつたが、いづれも故郷の家の生活の苦しさのために、天津の曙町へ前借で買はれてきてから、日本名をつけてゐた」と、朝鮮人であったことが明確に書かれています。

 また、「春婦傳」は
谷口千吉監督「暁の脱走」(1950)鈴木清順監督『春婦傳』、と二回映画化されていますが、やはりGHQによる検閲などで設定は大幅に変えられてしまったようです。

 田村氏が所属したのは独立混成第4旅団歩兵第13大隊第3中隊であり、田村氏と同じ三重県出身の兵士が多数含まれていて、田村氏のような戦場体験は、同郷の兵士たちに共通するものでもあったのでしょう。
 
戦争末期、田村氏は古年兵として中国大陸に残ることを許されましたが、多くの兵士たちは沖縄に移動して、過酷な沖縄戦のなかで戦死しました。歩兵第13大隊の兵士で終戦後に復員できたのは総員1060名の内、わずか92名しかいなかった、といいます。
 
彼らが強いられた戦場体験・・死と紙一重の状況での性・・は、生き残った田村氏の作品を通してしか知り得ないものだと思います。
彼らや彼らと行動を共にした娘子軍の生命の尊厳や名誉を回復させることなしに、希望ある日本の未来は訪れないものと思います。
 
 
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