チェルノブイリ事故でも、除染作業は相当予算をかけない限り効果が上がらないと言われていますが、お金をかけないで除染しようとするのは住民の負担を増やすだけのようです。国は率先して住民を避難させるべきではないのでしょうか。
以下、11月26日東京新聞「こちら特報部」様より。
「除染の限界」に苦悩する福島市の住民
仮置き場の確保の難しさに加え、間もなく雪という大敵も現れる。放射性物質の除染を急ぎたい福島市の住民の焦りは募るばかりだ。作業に挑んだ住民の一人は、除染の限界に打ちのめされたという。本来なら、汚した者が即座に除去すべきだが、現実はその当たり前とはほど遠い。「年内の冷温停止」「2年後の被ばく線量半減」。事故の幕引きを急ぐ政府のお題目ばかりがしらじらしく響く。
(出田阿生)
「あんなに住民が清掃したのに、もうこんなに落ち葉が降り積もった。いくらやっても、きりがない」。高い汚染で知られる福島市渡利地区。市立渡利中学校わきの路上で、そこから車で十五分ほどの同市御山地区に住む深田和秀さん(63)はため息をついた。
二十五日の気温は昼間でも五度くらい。赤や黄色に色づいた葉が氷雨で落ち、道ばたに吹き寄せられていた。今年は山の紅葉を喜べない。汚染された落ち葉が放射線量を上げるからだ。
深田さんは市民団体「放射能汚染・回復プロジェクト」の一員。同団体は京都精華大の山田国広教授(環境学)を中心に、福島大や大阪大の教員らと福島市民で構成している。今年五月から、住民の手でできる除染方法を探ってきた。
渡利地区の公共施設わきの側溝で、深田さんが線量計をかざす。表示された数値がぐんぐん上がっていく。そこに生えた雑草の近くでは、毎時六八・五一マイクロシーベルト(年に換算すると六〇〇ミリシーベルト)にもなった。地上約一メートルで毎時二マイクロシーベルトほど。同地区では避難者が相次いで子どもが減り、すでに閉鎖された保育所もある。
ところが、福島市が空間線量の定点観測をしている渡利支所前の公園では、立ち入り禁止のロープが。表土をはいで除染作業を実施中という。「九月二日に毎時二・二五~一・四七マイクロシーベルトだったのが、今月二日には〇・九八に減った。計測地点を除去するなんて、数値を下げたいからとしか思えない」(深田さん)
「除染プロジェクト」の実験では、洗い流す方法は最初から断念した。流れ出した水は側溝の泥にたまって新たなホットスポットをつくり、いずれ川や海に流れて汚染を拡大させるからだ。まずは庭の表面をはがす方法に挑戦した。
土ぼこりの飛散を防ぐため、市販の合成洗濯のりを薄く土にかけた。そのうえで、固めてはぎ取った土を袋に詰め、穴を掘って埋めた。
しかし、住宅地は一メートルほど掘ると、コンクリート片などが出てきて掘り進められない。環境省の汚染土埋め立て基準では「表土を三十センチかぶせること」となっているが、せいぜい十センチほどしかかぶせられなかった。
住宅の外壁や屋根、雨どいなどの除染で室内の放射線量を下げる実験もした。深田さん宅でも実施。屋根瓦に合成洗濯のりを塗り、園芸用の布をかけてからはがした。
ところが線量があまり落ちない。詳しく計測すると、屋根瓦の隙間に放射性物質が入り、取れていないと分かった。
「よく水で高圧洗浄しているが、表面の放射性物質は雨で流れており、ほとんど意味がない。セシウムはいったんコンクリートなどにこびりつくと結合してしまい、容易にははがれない」
深田さんは市街地に近い山々を見上げながら「放射性物質の供給源がこんなに近くにあったら、どんなに除染してもいたちごっこだ」と話す。
庭土の除染実験をした御山地区の住宅の空間線量は現在、毎時〇・七~一マイクロシーベルト前後。自分の家だけ除染しても、隣家の木の葉が落ちてくれば、数値は上がる。ローンの残った住宅を諦め、県外に避難した人もいた。
市立御山小学校を訪れてみた。通学路には雑草が生い茂り、その一角は五月に側溝脇で毎時一八〇マイクロシーベルトを計測している。校門には「今日の空間線量」と書かれた札。下校時、学校の駐車場は来るまであふれかえっていた。
子どもを乗せた軽自動車が通り過ぎる。「歩いて数分の距離でも、保護者が安全のために子どもを送迎している」と深田さん。そして校庭ではマスク姿の女性数人が、落ち葉をほうきで集めてはごみ袋に入れていた。
「あれは学校の公務員じゃなく、母親たち。子どもが少しでも被ばくしないようにと、毎日落ち葉を清掃している。東京電力や政府はなすべきこともせず、住民の善意にのっかっている」
福島市放射線総合対策課によると、市内でも大波地区は十月から除染作業を本格的に始めた。
汚染土砂などの仮置き場が確保できたためだが、これから積雪や凍結が予想され、年内には終わらない見通しという。
渡利地区では七月にモデル事業を実施した。観測地点の公園では表土を削っていたが、担当者は「仮置き場が確保できておらず、本格的にはしていない」と説明した。
深田さんは除染の限界を痛感したという。「完全な除染は困難で不可能に近い」。だが、住民はいる。どうすればよいのか。「子どもや妊産婦を県外に一時避難させて、無用な被ばくを避けるべきだ。まずはそこから始めるべきじゃないのか」
<デスクメモ>
先月三十一日の東京地裁の決定が耳目を集めている。福島県のゴルフ場が東電に除染を求めたが、東電は放射性物質は自社の所有物ではなく、除染の責任はないと拒んだ。地裁は東電側の主張を支持した。東電や国の姿勢は「不運だったと思って諦めろ」ということか。道理のかけらもない国になった。