外交能力の欠如した政権には、既に憲法の影すらない?
以下、東京新聞様より。
【政治】
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政府は十七日の国家安全保障会議(日本版NSC)と閣議で、外交・安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」と、国防の基本的指針となる新たな防衛大綱、中期防衛力整備計画(中期防)を決定した。初めて策定した安保戦略には、武器輸出三原則の基準緩和が盛り込まれ、安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認へ安保政策の見直しがまた一歩進むことになる。
戦略では、紛争当事国などへの武器や関連技術の輸出を禁じた武器輸出三原則に関して「防衛装備品の国際共同開発・生産が主流になっている」と指摘。「新たな安全保障環境に適合する明確な原則を定める」とした。政府は戦略を踏まえ、年明けにも武器輸出を原則可能にする新基準を策定する。
社会的基盤の整備では「諸外国やその国民に対する敬意を表し、わが国と郷土を愛する心を養う」との表現で愛国心を明記した。
新大綱では、基本理念に、陸海空の自衛隊の統合運用と即応性を重視する「統合機動防衛力」を掲げた。日本が攻撃される前に他国のミサイル発射台などを直接攻撃する「敵基地攻撃能力」については「弾道ミサイル対処能力の総合的な向上を図る」として、保有の検討を盛り込んだ。
中期防では、二〇一四年度から五年間で、米軍が沖縄に配備した新型輸送機オスプレイを、自衛隊も十七機導入する計画を打ち出した。中国が侵犯を繰り返す沖縄県・尖閣諸島を念頭に、離島奪還作戦を担う「水陸機動団」も創設するとしている。
人が搭乗せず、遠隔操作で高空を飛ぶ米国製「グローバルホーク」のような無人偵察機三機も配備。サイバー(電脳)攻撃への対応として、サイバー空間で相手側を攻める能力の保有も検討するとした。
中期防の五年間の予算総額は二回連続で削減されてきたが、前回よりも一兆二千億円増額し、二十四兆六千七百億円程度とした。
◆国民より国家優先
<解説> 安倍晋三首相の肝いりで初めて策定した国家安全保障戦略は、政府が憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使を容認することを前提に、自衛隊の海外派遣を拡大する「積極的平和主義」を掲げた。原則的に禁止してきた武器輸出の解禁、軍備増強にもかじを切った。専守防衛が骨抜きになり、戦後の平和国家の歩みが転換する懸念が一段と強まった。
戦略とあわせて決定した防衛大綱では、これまでの「節度ある防衛力を整備する」との表現が消えた。代わりに「実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備する。防衛力の質および量を必要かつ十分に確保する」と強調。厳しい財政状況にもかかわらず、防衛費は増額させる方針だ。
戦略には「愛国心」の表現も盛り込まれた。首相は第一次政権時代にも、改正教育基本法に愛国心を明記することにこだわったが、安全保障分野でも国民に愛国心を押しつけるつもりなのか。国民より国家優先という発想がにじむ。
先の臨時国会では、首相らが密室で安全保障の重要政策を決める日本版NSC創設法と、国民の「知る権利」を侵す恐れがある特定秘密保護法が成立した。情報漏れを嫌う米国に配慮し、軍事的な結び付きを強めることを狙っているが、安保戦略や防衛大綱はその延長線上にある。
国民に議論の中身を十分に伝えないまま、国のかたちを変える重大な決定がなされる危険性が高まっている。 (後藤孝好)
<国家安全保障戦略> 安倍晋三首相が9月、米国に倣って、外相や防衛相ら担当閣僚に策定を指示した。その後、首相が設置した「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・北岡伸一国際大学長)を中心に議論されてきた。米国ではホワイトハウスが作成し、国際情勢や外交、防衛、経済を軸に戦略目標を包括的に示す。英語の頭文字はNSS。オバマ政権は2010年、国際協調と外交・経済を軸にした総合力で米国の指導力を回復し米本土の安全確保を図るとする戦略を発表した。