数値は少し安心して良いようです。
以下、武田先生のブログより。
(セシウム降下量は落ち着いて来ているようですが、本日、具体的なデータはもう一度検討します。その間、データの見方について簡単に書きました)
今回のセシウム降下物が増えたことについて、どのようにデータを見たらよいかについて、急いで解説をしておきます。読者の方には大変失礼ですが、私がいつも学生に注意していることが中心になります。
学生は、科学的な研究を始めて経験するので、どうしても「人間的」にデータをみる傾向があります。主な注意点は、1)自分の意見や損得でデータを取捨選択する、2)最初からデータが間違っているといって除く、3)有効桁(説明します)の意味を理解していない、の3つです。
・・・・・・・・・
学生が一所懸命、卒業研究をしてきて、おおよその見当がついてきた12月頃、それまで積み重ねてきた結果と違う実験データが出てくると、きまって「おかしなデータが出たので、間違いと思います」と言って来ます。
彼(学生)が「間違っている」と思うのは、データを科学的に見て言っているのではなく、「卒業までわずかなのに、こんな時期にこれまでのデータと矛盾するデータが出てきて貰っては困る」ということでもあります。でも「彼の卒業」と「実験データ」は何の関係もないので、本当は心を強くして真正面から「卒業できなくてもいいや。科学が大切だから」と思えば良いのですが、そんな心の強さを持っている学生にはまだ会ったことがありません。
実に難しいことです。今回のセシウムのデータでも、「騒ぎになるから」とか、「まだデータが確定していないから」とか、いろいろな邪念がわくのですが、それと科学的なデータの結果を切り離すのはそれなりに訓練がいるようです。
第二に、データを見るときには誰でも事前にある「つもり」があります。よくよく考えますと、「判らないからデータをとる」のですから、自分のつもりに合致したデータがでるなら、もともとデータをとる必要はないのです。
つまり、どちらかというと、自分が「データはこうなるだろう」という「つもり」と逆のデータがでるときが、もっとも価値のあるときなのですが、人間は面倒だったり、考えるのがイヤだったり、思惑があったりしますので、自分のつもりにあったデータの方を喜ぶ傾向があります。
そこで、「つもり」と違うデータがでると学生は「間違っている」と言います。なぜ間違っているのか?と聞きますと、「こんなデータが出るはずがない」と言います。出るはずのないデータがでるのが良いのですが、逆のことを言うのが普通です。
学生が「出るはずがない」というのは時々、データに「間違い」があるからです。確かにデータには間違いがあります。間違いというか、データはある意味ではすべて正しいのですが、本人が考えている条件でデータがとれているかどうかが問題だからです。今回のケースでは12月25日ぐらいに測定器を誰かがセシウムで汚れた手で触ったかも知れません。
その場合でも、データは正しいのですが、「降下物を測る」という条件にはなっていないということです。データが間違っているかは、すぐに結論を出さず、とにかく最初は「正しい」と思って処理をすること、これが大切ですが、学生はほとんどsの勇気がありません。
・・・・・・・・・
第三の問題は、「有効桁」の問題です。科学には、単に1ベクレル、2ベクレルというように「一桁」しか判らない場合と、1.4ベクレル、3.5ベクレルというように「二桁」まで判る場合があります。今度の場合、文科省や福島県は、252ベクレルなどと3桁まで書いていますので、測定の精度は3桁までは大丈夫ということになります。
その場合は、3桁同士のデータを足したり引いたりできることになります。つまり、自分で測定したデータを示すときには、「測定精度」を考えて、単に3ベクレルとか、5.4285ベクレルなどと示します。
でも、学生が、5.4285ベクレルと言うと、私が「えっ!5桁も精度があるの?」と聞きますと、「いえ、38ベクレルを7日で割ったらそうなりました」と答えます。その場合は、38、つまり2桁しかわからないのですから、5.4ベクレルとしなければならないということです。
今回の場合、もし、252メガベクレルという数値を私が整理したら、「そんなところまで判らない」という人が出てくると思いますが、示された数値を有効として考えるのが科学の約束です。これを有効桁などと呼んでいます。少なくとも通常は、252メガベクレルと言ったら、最後の2には誤差が入っていても25には誤差はないとしなければなりません。
・・・・・・・・・
このことから今回のセシウムの場合、
1) まずは、データは正しいとする、
2) 3桁ぐらいまでは読んでも良い、
3) 定時降下物と呼ぶ限りは、定時降下物と思って良い、
4) 従って、8月以来、異常な状態である、
と結論して最初は考えるべきであることがわかります。音声付きです。
(平成24年1月8日(日))
武田邦彦